ゴミの山が消えた日!私の時間が動き出した
玄関のドアは、もう半分しか開かなかった。部屋の中は、コンビニの弁当容器、ペットボトル、読まなくなった雑誌が積み重なり、まるで地層のように私の怠惰な日々を物語っていた。いつからこうなったのか、もう思い出せない。ただ、ゴミに囲まれていると妙な安心感があり、外界の喧騒から守られているような気さえしていた。しかし、その代償は大きかった。友人は誰も呼べず、健康を損ない、何より「自分はダメな人間だ」という自己嫌悪が心を蝕んでいった。転機は、一本の電話だった。心配した姉が、泣きながら「お願いだから、助けを求めて」と言ったのだ。その声に、凍りついていた私の心が、少しだけ溶けた気がした。震える手で、インターネットで探した片付け業者に電話をかけた。処分当日、作業員の人たちが手際よくゴミを運び出していくのを、私は部屋の隅でただ見ていることしかできなかった。ゴミ袋が次々と運び出され、空になったペットボトルがガラガラと音を立てる。それは、私の心の中に溜まっていた澱が、外に出ていく音のようだった。数時間後、作業員の一人が「床、見えましたよ」と声をかけてくれた。恐る恐る目をやると、そこには何年ぶりかに見る、フローリングの木目があった。窓から差し込む光が、床に反射してキラキラと輝いている。私は、その場にへたり込み、声を上げて泣いた。それは悲しみの涙ではなかった。ゴミと一緒に、私の停滞していた時間も処分されたのだ。空っぽになった部屋は、少し寒くて、広すぎた。でも、そこには絶望ではなく、未来への可能性が満ちていた。あのゴミの山が消えた日から、私の人生の第二章は、静かに、しかし確かに始まったのだ。